──小坂さんといえば大ヒット曲「あなた」で広く認知されていますが、「セーラームーン」の楽曲を手がけていたということを知らなかった人も多いと思います。まずは「セーラームーン」のお仕事をすることになった経緯から伺えますか。

最初はミュージカルでした。アニメは、「セーラームーン」の前に同じ枠でやっていた「きんぎょ注意報!」の音楽を担当していたので、「小坂さん、この枠は1回お休みね」と言われて当初は関わってなかったんですよ。けど「セーラームーン」のミュージカルが始まる段階になって、「オーケストラもポップスも書ける人に頼みたい」とオファーをいただいたんです。

──ミュージカルが始まったのはアニメ放送開始の1年後、1993年ですね。

まずはテーマソングを決めなくちゃ、ということで作りはじめたんですけど、いくら書き直しても全然OKが出ないんです。そうこうしてるうちにチケットが発売され、テレビCMまで流れはじめちゃって(笑)。

──えっ。その時点で1曲もできてなかったんですか?

ええ(笑)。音楽家が私のほかにもうひと方いたので、どっちが何をやるのかも、テーマソングができないと決められないという話になり……。書いても書いても違うって言われるから頭にきて、プロデューサーに「今日集まってください!」って電話したら、10人くらいに囲まれてびっくりしました(笑)。それでお話を伺った後に「絶対にこれだ!」って自信を持って書けたのが「ラ・ソウルジャー(La Soldier)」でした。でもなんかすぐに出すのが癪で、提出せずに2日くらい温めてました(笑)。

──あはは(笑)。

迷いもあったんですよね。それまでの私は"シンガーソングライター・小坂明子"のカラーを守ってきてしまっていたから、新境地となりそうなこの曲を発表してしまったら、今後この路線がずっと求められるんじゃないかなって。でももう時間もなかったので、そのまま提出したんですけど。

──確かにこの「ラ・ソウルジャー(La Soldier)」には歌謡曲っぽさはないですね。

そうなんですよ。そして、冬杜(花代子)さんの歌詞がまたエロティックで。

──「セーラームーン」なのにこんなに大人っぽい詞でいいんだ、と驚きました。

でもセーラームーンってそもそもすごくエロティックだし、非常に深いストーリーですよね。アニメは割と子供向けになっていたから、ミュージカルはその真髄をついていくというか、アニメと差をつけたいっていう意図もあったんだと思います。セーラームーンという正しいものを恨む悪と、それらを殺すのではなく浄化するという方法で戦うセーラームーン。その終わりのない正と悪の関係が、「セーラームーン」のミュージカルで一番歌にしたいところでした。400曲以上書きましたけど、「ラ・ソウルジャー(La Soldier)」はグランドテーマとして長く歌い継がれましたね。

──400曲も!

13年間ずっと、「セーラームーン」のミュージカルに曲を書いてたんですよ。その頃は1年のうち7カ月分くらいを「セーラームーン」に割いてました。春、夏、冬って、公演が年3回ありましたから。

──毎回その都度、新曲を作らなきゃいけなかった?

そう。しかもキャストが変わったりするから、誰でも歌えるように曲のキーを狭くとらないといけないわけです。キャストはもともとミュージカルを勉強してきていないタレントさんが多かったので、曲を作るのは大変でしたね(笑)。でも、そのお陰で一般の人が歌いやすい曲とか、人を育てることを学ばせてもらいました。いまだに当時の役者さんが、うちに歌のレッスンを受けに来るんですよ。