可憐にして無敵。この宇宙の「かわいい」が余すところなく詰め込まれた永久不滅のヒロイン「美少女戦士セーラームーン」。その20周年を記念して、15歳の福原遥からベテラン堀江美都子まで世代を超えた"女の子"11組が「セーラームーン」の名曲たちをカバーしたのが、このトリビュートアルバム「美少女戦士セーラームーン THE 20TH ANNIVERSARY MEMORIAL TRIBUTE」だ。

収録曲を見渡してまず気付くのは、10曲中8曲の歌詞に「恋」というワードが登場し、すべてがラブソングであること。「美少女戦士」を名乗る彼女たちも、日常では等身大の女子中学生。本当は戦いたくないのに大切な人を守りたいという一心から敵に立ち向かっていく、という物語の本質が、楽曲群に投影されているのだ。放課後の寄り道に胸を弾ませたり、時折仲間とケンカしてはすぐ仲直りしたり、「ステキな彼が欲し〜いっ!」と叫んだり。そんな珠玉のラブソングを、声優・三石琴乃が寄せたコメントと共に1曲ずつ紐解いていこう。

トラックは「セーラームーン」の歴史を辿るように、放送された順に並べられている。トップバッターはもちろん「ムーンライト伝説」。無印からSuperSまで4年間オープニング曲として使われ、三石琴乃も一番好きな楽曲だと語る、作品を代表する1曲だ。担当したのはももいろクローバーZ。原曲のエッセンスを濃く残した仕上がりを耳にすれば、当時のオープニング映像がフラッシュバックすることだろう。そして初代エンディングテーマ「HEART MOVING」では、大の「セーラームーン」ファンを公言してきた中川翔子が、浅倉大介が構築したキラキラとしたサウンドに伸びやかな歌声を乗せている。

続く「プリンセス・ムーン」を歌うのは、「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」で知られる福原遥。松浦亜弥や小倉優子のお姫様フィール溢れるトラックメイキングを手がけてきた小西康陽が、鐘の音やチェンバロを用いてプリンセスというテーマを存分に表現している。次に控えるのは、「R」のエンディングテーマにして、30万枚を超えるセールスを記録した人気曲「乙女のポリシー」。やくしまるえつことドラマー・プロデューサーのJimanicaが、アップテンポな原曲をドラマチックなエレクトロニカに生まれ変わらせた。トラックがハウシーに盛り上がっていくさまは、まるで「R」のエンディング映像でどんどん加速していくうさぎのよう。

唯一ミュージカル(通称「セラミュー」)の楽曲からセレクトされたのが「ラ・ソウルジャー(La Soldier)」だ。Tommy heavenly6によるカバーは、雷鳴がとどろく物々しいイントロから始まるヘヴィメタル調。そして「愛の戦士」では後藤まりことアヴちゃん(女王蜂)が奇跡のコラボレーションを果たし、熱いユニゾンで闘志を叫んだ。ともに劇中歌としてアニメで用いられたこの2曲は、ラブソングながら歪んだギターが戦闘シーンの緊張感を漂わせている。

「タキシード・ミラージュ」ではももクロが再び登場。原曲は三石琴乃をはじめとするセーラー戦士役の声優5人から成るユニット「Peach Hips」が歌唱しており、三石はセーラーチームの絆を「物語同様、頼りない私をセーラー戦士の4人が歌声で支えてくれました」と振り返っている。「"らしく"いきましょ」は、等身大の女の子を綴った武内直子の歌詞を、桃井はるこがハツラツと表現。彼女の楽曲を多く手がけてきた齋藤真也が、原曲を活かしつつ極上のダンスチューンに昇華してみせた。

そして終盤を飾るのは最終シリーズ「セーラースターズ」のテーマたち。オープニング曲「セーラースターソング」は、 "アニソンの女王"として知られる堀江美都子が担当した。彼女は同シリーズにてセーラー戦士たちを脅かす破壊の戦士・セーラーギャラクシア役を演じており、時を超えた邂逅に胸が躍る。エンディング曲「風も空もきっと…」では、川本真琴が倍音成分の多い歌声で切ない別れを表現。観月ありさによる原曲よりもテンポを下げ、よりしっとりとアレンジされた。

ラストにはフランス人歌手クレモンティーヌが「ムーンライト伝説」を、ピアノとアコースティックギターに乗せて歌い上げるボーナストラックも収録。三石琴乃は「お洒落な『ムーンライト伝説』に拍手しながらノックアウトされました」と、その仕上がりに太鼓判を押している。

参加アーティストたちの熱量は相当のもので、レコーディングの際には歌い方やアレンジについて、ディレクターへ数多くのアイデアが提案されたという。中川翔子は「セーラームーン」との出会いを「人生のビッグバンでした」と語り、アヴちゃん(女王蜂)は「どんな文章を連ねようとも、参加への喜びを書き切ることはできない!」と、愛用のルナPボール型バッグを持ちアーティスト写真を撮り下ろした。三石琴乃も今作を聴いて「アーティストさんの作品に寄せる愛の応酬にクラクラ」したと語ったが、このアルバムには「セーラームーン」に魅せられ、そのパワーを享受して輝く"女の子"たちのエネルギーが、ぎっしりと充満している。世知辛いこの世を逞しく生き抜く女性たちにとって、まさしく"戦士の休息"といえる1枚となってくれることだろう。
岸野恵加(コミックナタリー)